2013年10月31日木曜日

ともすればただ流れ過ぎていくだけの

 今回の展示を企画してくれた古本屋(仮)さんが発行しているフリーペーパー「Yoms」で、先日私の特集をしていただきました。セブンイレブンのネットプリントで限定配信というもので、発行期限を過ぎたので、特集記事の文をご紹介します。文章を寄せてくださったのは、ギャラリストの棚さんで、最初に器を買っていただいた記念すべきお客様です。売るということなどまだ微塵も考えていない時期に買っていただいて戸惑いもあったのですが、お金を払っていただくに値する器を作る責任ということをしっかり考え、真剣に器と向き合うきっかけとなりました。もしあのとき棚さんに買っていただかなかったら、私はまだのほほんと練習だけをしていたことでしょう。

 

*****************「Yoms」特集:器について。より


  古本や出版の街として知られる東京・神田の神保町は実はなかなか騒々しいところで、早朝から夜中まで街角から人の姿が消えることはなく、道を行き交う人々の移ろいからはそれぞれの暮らしが少しずつずれながら重なり合っているのを感じられるでしょう。地下鉄の駅から地上に出てすぐの神保町交差点は、信号待ちの人と車をほんの少しだけ足止めしながら、ともすればただ流れ過ぎていくだけのせわしげな往来に、寄せては返すにわかなざわめきの波をさりげなく与えています。

   そんな賑わしい交差点からほんの1、2分、大通りに面したビルの裏側に一歩入ったところに「路地と人」という場所があります。昼も薄暗く、夜には闇の深い、古びたコンクリートやモルタルの一面くすんだ灰色の風景のなか、舗装の隙間からすくすくと伸びた雑草の小さな自然に思わず気を取られると、そのすぐ隣に置かれた「路地と人」の看板と小さな入口が見つかるでしょう。築40年を越える小さな木造アパートのわずかな軋む階段をそろそろと上りきるころには、すぐそこの交差点の喧騒はすっかり遠のいているはずです。右手の扉をくぐれば、そこが目的の場所です。

   この静かな路地裏の4.5坪ほどの空間は、2010年の1月から「人の行き来する部屋」として様々なできごとを目の当たりにしてきました。ここで2013年10月29日から11月4日に行われるのが、実店舗のない古書店の古本屋(仮)と画家の齋藤祐平さんの二人の物販ユニット「yoms」による「yomstore」という催しです。古本屋(仮)を営んでいるのは齋藤祐平さんの奥さんの末度加さんですが、そこに末度加さんの叔母である陶芸家の福田サイノさんを加えた三人が、この度は古本と絵と器の展示と販売を行うそうです。

   古本屋(仮)と齋藤祐平さんの様々な活動はすでに広く知られていますが、ほとんどの人にとっては福田サイノさんを知るのは今回が初めてでしょう。劇団女優、カフェ経営者、キャスターとして活躍してきたサイノさんは、2007年に陶芸に出会い、自宅の庭にアトリエ「moggy pottery」をなんと自分の手で作ってしまいます。昔ながらの蹴ろくろで造られた器は、庭の樹齢百年を越すケヤキの落ち葉を燃やした灰を材料にした釉薬で仕上げられます。ろくろの回転も釉薬の色味もその時々の偶然に左右され、まったく同じものは決してできあがりません。だからこそひとつひとつに控えめながらも豊かな趣があるのでしょう。

   それを、複製でありながら人の手を渡るうちに個性を深めていく古本や、同じようなモチーフを繰り返し描きながら何一つ同じものはない齋藤祐平の絵画に、どこかしら通ずるものがあると思うのは考えすぎでしょうか?いずれにせよ、この催しをきっかけにmoggy potteryの器がより多くの人に触れられることになるのはとても嬉しいことです。形も重みも大きさもほんの少しずつ違う器の中には、まるで長年使い続けてきたかのように手にしっくりと馴染むものがあるでしょう。もしそんな巡りあわせがあったならば、その直感に従うのも一興ではないでしょうか。 

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 文: 棚さん(ギャラリスト)
  2010年10月10日より東京・神田の神保町にある美学校の中で本棚一段のギャラリー「TANA Gallery Bookshelf」を運営。齋藤夫婦を訪ねたときにmoggy potteryの小さなカップに一目惚れし、散々だだをこね、その日のうちに譲って貰ったのはたしか去年の今頃のこと。

http://tanagallerybookshelf.com/


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 「Yoms」のバックナンバーはツイッターのリクエストで受け付けているそうです。  

@cacco_kari  

 yoms5 yomstoreにむけての特集号  
 2013/10/14












特集:moggypottery福田サイノ 
表裏紙デザイン: 齋藤祐平  
寄稿:棚さん「器について」 
マンガ:タコ25 

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終了しました。ありがとうございました。
開催中!「yomstore
  古本屋(仮)による古本、齋藤祐平による絵、福田サイノによる器の展示販売。

  会場:路地と人(http://rojitohito.exblog.jp/
  会期:10/29(火)~11/4(月・祝)
  開場時間:平日…1922時、土日祝…1420 
 *作家在廊 11/2,3,4  
 

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